たったひとりの君にだけ
思わず数センチ浮いていた腰をゆっくりと下ろす。
頭ではわかっている。
親友に対して罵声しか浴びせられない私には返す言葉がないのだと。
真正面からぶつけられる言葉の数々は、毒気を持っていても全て正しい。
だからこそ、悔しくてたまらない。
「……そんなに怖い?」
ミネラルウォーターを取り返す気にもならず、思い切り下を向いて自ら視界を暗くしていた私の耳に届いた一言。
決して見捨てるような雰囲気ではないことに気付く。
嘘じゃない。
本当に、頭ではちゃんとわかっていた。
瑠奈は最初から、無意味に私の腹を立たせようとしていたわけじゃないことは。
なんだかんだいって、実のところ人の心配なんてしている場合ではないはずだ。
退職の決心はしたものの、優秀ゆえに引き止められ、それすら反感を買っていると電話越しに瑠奈は笑っていた。
それでも今は水面下で転職活動をしているけれど、人手不足だなんだといって受理はされても先延ばし状態らしい。
そろそろ本気で辞めにかかる、タイミングを見計らっていると言ってはいたけれど雲行きは怪しい。
けれど、勝手なことは言えないと、私はいつも耳を貸すだけで。
たまに何かを口にしたかと思えばさらっとした有り触れた答えを述べるだけ。
それに比べて瑠奈は本気で私に食ってかかる。
私はただ、軽々しく何かを口にして気落ちに拍車をかけたり惑わせたくなかった思いが強かったけれど。
瑠奈が纏う空気から、無数の棘が消えたことでわかる。
親身になればなるほど、それがどんなに大変で身を削る作業か。
私はいつだって守りに入っている。
彼女のわかりにくい優しさに気付いたからこそ、幾分冷静になった今は助かる。
「芽久美?」
だからこそ、本音をぶつけられる。
「……怖いに、決まってる」
瑠奈に言わせれば、それは一番簡単な方法で。
同じマンションに住んでいて、しかも部屋番号まで知っているこの状況を、利用しないバカがどこにいるんだということだ。
だけど、そこまでして拒否されたら。
モニターに映った私を見て出るのをやめたら。
会ってくれなかったら。
私はどうすればいいんだろう。