たったひとりの君にだけ
すると、瑠奈が突然、私の右肩を強く掴んだ。
なに、と口にするより先に顔で示した私が彼女の方を向くと、瑠奈はその勢いのままに物凄い剣幕で甲高い声を上げた。
「あんたねっ、クリスマスにミツオとデートした時点で、魂売り渡してんのよ!」
そして、至近距離で指を差される。
鼻先が潰されそうな勢い。
思わず寄り目になってしまう。
「ったく、今更何を悩んでるんだか」
投げ捨てた台詞と同時に、瑠奈は私を解放する。
再び正面を向き、明らかに私に聞かせることを目的とした特大の溜息をついたと思ったら、懲りずに『デートしたくせに』とボソッと口にした。
「……デートじゃないし」
だから、低音で訂正に踏み切る。
けれど、言わずもがな、無意味。
「この期に及んで意地張るとかやめてよ。みっともない」
「みっともないとか失礼なんですけど。それに、魂売り渡したとか大袈裟なんですけど。なにその身売りみたいな」
すると、瑠奈は私の反論に心底呆れた様子で長い髪をかき上げた。
「あのねえ、身売りより勇気が要ることよ。魂よ?心よ?体だけ許すより壮大なことよ。それをあんたは既に無意識のうちにやってんの、去年の12月24日にね」
ビシッと言われた一言に、私は即座に言葉を返せなかった。
むしろ、瞬きも忘れて彼女に見入る。
心臓が誤作動を起こしたみたいに激しく音を刻む。
そして、先に視線を外したのは瑠奈。
ペットボトルの水を一口飲んでこちらに戻す。
「そこまでしてるくせに、連絡取れないくらいで諦めるなんてありえないっつうの!バーカ!」
ついでとばかりにマティーニまで飲み干した、彼女の最後の2文字は。
決して、そのままの意味ではなく。
何故だろう。
おかしくなったのだろうか。
私には『頑張れ』に聞こえてならなかった。