たったひとりの君にだけ

本音を言えば、この結果に傷付いていないわけじゃない。


裏を返せば傷付く為にメールを送ったようなものだ。



“どうせ返って来ないだろう”



心のどこかどころか全体で思っていた。


それでも私はここにいる。


手が小刻みに震えていることに気付く。
決して寒さの所為じゃない。

社会人一年目のときの大失敗を思い出す。
先輩と一緒に、翌日、お客様のもとに謝りに行ったとき、手が震えてなかなかインターホンを押すことが出来なかった。

だけど、確実に、あのときよりも緊張している。

あのときは逃げることは許されなかったけれど、今は本当に嫌なら尻尾を巻いて707号室に逃げ帰ることも可能だ。

マスター曰く、恋愛は自由。

告うも告わないも勝手。
踏み出すも踏み出さないも勝手。
背を向けるも向けないも、私の勝手。


けれど、それはしない。

私はここから立ち去らない。


だから、お願い。
その顔を見せてよ。


私はゆっくりとボタンを押した。
< 365 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop