たったひとりの君にだけ
リンクするように、中枢が一際大きな音でもって出迎える。
同時に、視界に映る久し振りのその姿。
ジーンズにグレーのトレーナーは3度目だった。
「……ひ、久し振り」
「あ、はい、……お久し振り、です」
けれど、ぎこちなさが色濃く漂う。
「ごめん、急に。……あの、これ、どうぞ」
「……え、なんですか?」
そして、未だ響く、その冷たい声はどうしてだろう。
「……プリンタルト、なんだけど」
恐る恐る箱を差し出すと、何故か彼には素直に受け取る様子がなく。
「……ど、どうして?」
それよりも、むしろ数センチ後ずさりされたような気がした。
そして、私がその問い掛けに怯んでしまうのは。
たとえそのとおりでも、バレンタインだから、なんて言える雰囲気ではないからであって。
2週間も経っている。
“今さらなんで?”
そう言われるのがオチだ。
「……プリンタルト好きだって、前、キオナのメガネ君から聞いたから」
近からず遠からず、そんな答えを口にすると、彼は無表情にありがとうございますとだけ口にして、静かに箱を受け取った。
これは夢なのだろうか。
だとしたらそれでいい。
その方がよっぽど助かるだろう。
2週間前、睡魔と闘いつつ喜ぶ顔を想像した。
作り直した今日の昼過ぎ。
避けられていると自覚しつつも笑顔を思って前回を上回る出来を実現した。
だけど、私の願いは少しも届きそうにない。
高階君はプリンタルトの入った箱を、そっと下駄箱の上に置く。
何もかも違う現実に、既に心が大きな音を立てて折れそうになっていた。