たったひとりの君にだけ
「……やっぱり手遅れだったんだ」
拳が自然と解かれていく。
思わず漏れ出た一言が、彼に聞こえたのか否か。
確認する余裕もつもりもなく、私はもう自暴自棄になっていた。
わざと笑ってみせる。
たった今、目の前で。
勝算がゼロと確定した勝負にみすみす身を投げ出すほど私は強くない。
「……うん、わかった。もういい。……もう、いい……」
早くここから去るべきだ。
本能がそう警鐘を鳴らす。
最後の最後に醜態なんて晒したくない。
同じ“去る”ならば、カッコよく去りたい。
早くしなければ。
堪えていた涙が溢れ出そうだから。
「……うん、ごめん、時間取らせて。自惚れてた、ホント、情けな……」
メールが来ない現実を目の当たりにしても、1%くらいはまだ可能性があるんじゃないかって。
そう思ってこのザマだ。
ここらで身を引くのが賢い選択。
だってもう、頑張ることなんて出来ないよ。
「もう、行くね。……じゃ」
だから、完全に詰まって、無様な顔を晒す前に。
声が震えていることに気付きながら、さりげなく口元を手で押さえて。
私は素早く背を向けた。
そのとき。
「芽久美さん!」
耳をつんざくような声が響いた。
驚く間もなく、ぐいっと強く引っ張られた手首。
私はただでさえ歪んでいた顔を、痛みでさらに歪めた。
「なんで、泣いてるんですか……」
そして、聞こえて来たのは搾り出すような声。
愕然としたままでも、一瞬で、その一言に胸がぎゅっときつく締めつけられた。
どうしてだろう。
顔を見なくてもわかる。
まるで、泣きたいのはこっちだよ、と言われているような。
少しずつ手首の力が抜けていく。
出かけた涙は引っ込んでいた。