たったひとりの君にだけ

「最初から言ってるべよ!好きなんだよ!目の前で泣かれでほうっておけるわげねえべさ!好ぎなんだから!」



思う、ではなく確実に。
高階充はキレている。

いつかのように飛んで来る唾。
彼は惜しげもなく故郷の言葉で、一直線に私にぶつかっている。


「わあの気持ちは去年からずっと変わってねえ!好きだからほっとけねえんだって!」

「う、嘘!」

「嘘なわけあるか!」


幾らか弱まっていたはずの左手首の力が再度強まった。

けれど、痛みを口にして抵抗する暇もなく。


いつかのように彼が叫んだ言葉の全てを理解出来なくても、あの日のように、単語だけはしっかりと聞き取れた。


訳がわからない。
心臓が常識外れの爆音を立てている。

鼻息荒く沸騰寸前の高階君を正面に、私は何から尋ねればいいかわからず、むしろ混乱していた。

すると、束の間の沈黙を破るように、右方向からエレベーターの到着を告げる音が鳴り響いた。
反射的に顔を向けるとそこには顔見知りのお隣りさんの姿が見えて、一瞬で焦りが全身を駆け巡る。

そこまで親しくはないけれど挨拶くらいは交わす間柄。
この状況を説明するほど冷静でいられる自信はなく、そもそも進んで説明したいとは思わない。

どうしようかと使い物にならない脳みそを動かす余裕もなく、冷や汗さえ流れて出そうになっていると。


「いいから!こっち!」


そんな私に気付いたのか、高階君は掴んだままの腕をぐいっと引っ張った。

強引に自分の部屋に引き入れる。
そして、素早く玄関の扉を閉めた。
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