たったひとりの君にだけ
悩んで悩んで結局、大事なことはやっぱり直接伝えたいからと。
悟られるような文章を一切排除したあの一大決心のメールが、結局は裏目に出たということ。
良かれと思ったことがそのとおりの結果を生み出すとは限らない。
「だから、俺、メールを返せなかった。面と向かって振られるのが怖かった。こっそり想いを断ち切ろうとしてました。二度目の『ラーメン食べに行きませんか』のメールも、あの光景が脳裏をちらついて、素直に受け止められなかったんです」
自分だけだと思ってた。
だけど、自分だけじゃなかった。
知り得なかったことを考慮しても、苦しんでいたのは高階君も一緒だった?
「だけど、本当は今、こうやって会いに来てくれたこと、怖さもあったけど、嬉しくもあって。でも、いざとなると、やっぱり芽久美さんの口から別れの言葉を聞くのが怖くて、だから俺、……ごめんなさい、冷たくして傷付けて、本当にごめんなさい」
それなのに、彼はどこまでお人好しなんだろう。
私から重い口を開くべきなのに、私は何も伝えられていないのに。
思ってもいないことを勢いで喋って、逆ギレばっかりしてたのに。
そんな私に、どうして彼は謝っているのだろう。
「……でも、芽久美さん、俺」
何も言えずに黙る私の耳に、彼の穏やかな声が届く。
そして、彼に対して、自分に対して罪悪感に苛まれる私の心を、彼は強く強く引き寄せた。
「やっぱり、芽久美さんが好きだから」
俯き続ける私には、その顔を見ることが出来なくても。
きっと、声色どおりの顔がそこにはあるんだと根拠のない自信があった。
優しすぎる一言が、全身に降り注ぐ。
私の胸を熱くするには充分すぎるほどだった。