たったひとりの君にだけ
「……俺、そんなデキた人間じゃないです。それに、芽久美さんは優しいです」
それなのに、この状況でも彼は十八番の台詞を口にする。
百歩譲って口説き文句と捉えても、今の私には効果がない。
むしろ逆効果だ。
たとえ力が込められた真剣な声だと気付いても。
こっちだっていつになく真剣だから、戯言に耳を貸すつもりはない。
「冗談言わないで。どこがよ」
「冗談なんて言ってません。じゃあ、全部言いましょうか?前言ったことから全て」
「要りません」
隙を見せると本気で言い出しそうな雰囲気だった。
その前に食い気味に断固拒否して、顔を背けたまま私は改めて事実を告げる。
「私は優しくなんかないんだって」
けれど、直後に盛大な溜息をつかれた。
呆れた気配を嫌というほど至近距離で感じていると。
「どうしてそんなに自分に自信がないんですか」
どこか投げやりに、ぶっきらぼうに言われて思わずむっとし返す。
「自信満々に生きてる人なんていると思うの?」
劣等感、嫉妬、焦燥、数え切れないほどのマイナスが。
言わばゼロの状態で自分を100%誇れる人間なんてこの世に存在するの?
答えがわかり切っている問い掛けになんの意味も見出せない。