たったひとりの君にだけ

「って、俺先走ってますか?ってか浮かれてるのかな」


確固たる自信は何処へやら。

途端に焦燥を滲ませて、彼はこめかみの辺りをしきりにかき始める。


「そういえば、俺は芽久美さんのこと好きだけど、芽久美さんからまだ気持ちちゃんと聞いてないし」


嘘だ。
嘘つきだ。
さっきから、チラリチラリとストレートに言っている気がするんだけど。

思わぬ角度からの攻撃に怯みつつも。
思い出したように言う彼に、私は不貞腐れたように言い返す。


「……ここまで言えばわかるでしょ」

「いーえ。わかりません!」


今度は一転、自信満々に断言する。


「んなバカな」

「言葉にしてくれなきゃわかりません」


女子か!

つんとそっぽを向く彼を見て、私はお口を開けて黙る。

完全なる意地悪だ。
何気にドSの気質も持ってたってわけ?

なんなのよ、もう!


言わなくたってわかってるくせに。
わかってるからこそそんな余裕を見せられるくせに。



君にだけだったよ。


部屋に入れたことも。
野暮ったい部屋着を見られたことも。
キッチンを貸したことも。
逆に手料理を振る舞ったことも。
バレンタインに手作りを試みたことも。

そして、クリスマスを一緒に過ごしたことも。

君だけだった。


そして、これから先の私の、“また”を捧げたいと思うのも。




たったひとりの君にだけ。
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