たったひとりの君にだけ
「芽久美さん」
いつのまにか彼のペースに巻き込まれている。
だけど、不思議と全然嫌じゃないと感じていた私が、返事のかわりにゆっくりと、その純真無垢な瞳を見つめ返すと。
「好きです」
息が止まった。
優しい金縛りにあったみたいに動けない。
正々堂々、改めて言われたその一言は。
私の重苦しい身包みを剥がすには充分すぎるほどだった。
いつだって彼は先を行く。
しかも、一際柔らかな声で、瞳に宿した熱は暖炉に灯した明かりのようで。
せっかく悪態をつけるまでに回復したのに。
締めたはずの涙腺が、気を張らなければ今にも緩んでしまいそうで。
そして、ありえないけれど耳のすぐ傍に心臓があるかのようで。
彼とは真逆に、私はきっと余裕皆無。
全身の血が駆け巡る。
苦しくて愛おしくて、私は胸に手を当て俯いた。