たったひとりの君にだけ
「……芽久美さんは?」
だからこそ、今度はちゃんと言おう。
こんなチャンス、二度と来ない。
心臓が飛び出そうなんて本当にあるんだなと思いながら。
私は彼のトレーナーのアルファベットを見つめた。
「……私も、」
けれど、最後まで言い切ることが出来なかった。
覆われた熱。
遮られた視界。
耳元にかかる吐息。
抱き締められていると気付き、えっ、という声を漏らすと彼は殊更強く私を呼吸困難に陥らせた。
心臓が早鐘を打ち、速度をひたすら増していく。
今こそ本当に、冗談抜きで飛び出るレベルだと確信しつつも。
苦しいけれど苦しくないと感じるのは。
もしかして。
これは私が望んでいた展開なんじゃないかって。
一瞬でも、そう思った。
「……ねぇ」
「……なんですか」
「なんですかじゃなくて。……あのさ、言葉にしてって懇願したくせに、言わせてくれないってどういうこと?」
「だって、我慢ならなくなって」
即座の切り返しは正真正銘、本音だろうけど。
私の一世一代の告白を待たずして。
自由奔放な彼は私の思考を軽く超えていく。
素直すぎて敵わない。
「芽久美さん」
今度はなに。
「泣き顔、初めて」
「は?」
無言を決め込んだ私に落とされた、これでもかという爆弾。
超絶間近の嬉々とした雰囲気を存分に感じて、彼の胸から顔を上げる。
すると、案の定、彼は極上の笑みを浮かべていて。
「な、泣いてないってば!」
「素直になって下さい」
「……もうっ!」
胸を思い切り叩きたいけれど物理的に不可能。
瞬時に言い返せなかった私は隠すように彼の胸に顔を埋めた。
今の私はきっと、何を言っても彼に負ける。
私だって初めてだよ。
男の人の前で泣いたのなんて。