たったひとりの君にだけ

「充くんとお付き合いされてるんですね」

「え、あ、はい、……一応」

「一応ってなんですか」


真横から鋭くツッコミが入る。
そこは照れたんだって察してよ。


「久瀬さんは、」

「佑李でいいですよ、そのかわり、芽久美さんって呼んでもいいですか?」


見事にスルーした私は久瀬さんと会話を続けようとした。

すると、大人しそうな雰囲気からは容易に想像出来ない積極さに遭遇する。
けれど、当然、嫌な気持ちは微塵もなかった。


「……はい。勿論です、佑李さん」


私の返事に、彼女は嬉しそうに笑った。


「ってか、充!お前、どうやって椎名さんを落としたんだよ?」


さあ、佑李さんと何から話そうか。

内心ワクワクしていた矢先、斜め向かいから聞こえて来た親友の問い掛けは。
私に向けられたものではないけれどやっぱり嫌なものは嫌だと思う。


「へ?」

「だから、もうダメだとか言ってたくせにどういう風の吹き回しだよ?」

「え、それは」

「……そういう話は私がいないところでして下さい」


チラッと高階君に横目で見られたことに気付きながらも無視して、私はわざとそっぽを向いた。


「め、芽久美さん、怒らないで」

「別に怒ってません」

「し、椎名さん、怒らないで下さい」

「怒ってないってば」


なんだろう、高階君が二人いる気分。
本当に、類は友を呼ぶのだ。

だからきっと、彼もいい人なんだと直感で思う。


「……椎名さん」


すると、突然、いきなり落ち着いた声で呼ばれ、私は僅かに身構える。
そっとメガネ君に顔を向けると、彼はおちゃらけた雰囲気から一変、高階君のように穏やかな笑みで私を迎えて。

そして、そのまま、こう言った。




「椎名さん、充をよろしくお願いします」




やっぱり。
私の勘は当たったらしい。

軽く頭まで下げるのは大袈裟だと思うけれど。
そして、とてつもなく単純な思考かもしれないけれど。


誰かの幸せを自分のことのように喜べる人はいい人だと思う。



「……頑張ります」



目の前からはクスッという声が聞こえた。
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