たったひとりの君にだけ
冬空の下、厚手のコートにカシミヤ素材のマフラーを首に巻いて、しっかりと手袋も身につける。
肌触りがよくて実に申し分ない。
万全の対策。
そもそも隣の男にアホ呼ばわりされるのなんて二度と御免だ。
最寄り駅までの10分を、誰が何を言わずとも自動的に共にする。
目的地が一緒だから致し方ない。
「寒いですね~、風邪引かないで下さいね~」
「わかってるって」
風邪ネタはもう充分です。
けれど、チラリと横目で伺うと、ダッフルコートのポケットに手を入れて、仕舞いには鼻歌なんて歌い始めるから、きっと何を言われも動じてなんてくれないんだろうなと思った。