たったひとりの君にだけ
「あのさ」
「うん」
「ミツオじゃないし、充だし」
「そんな細かいことどうでもいいって、愛称よ愛称。で?」
わざとなのか、なんなのか。
読めないからタチが悪い。
人の名前を間違って覚えていることが細かいだなんて、社会人としていかがなものかと思う。
だけど、私だってその名前を、一度たりとも呼んだことはないけれど。
「……充だからね、ミ・ツ・ル。で、訂正2つ目。デートじゃないから」
語尾を強めてもはや半分が水のオレンジジュースを空にした。
わざわざ呼び出しボタンを押さなくても、直に運ばれて来るであろう料理がテーブルに到着したら追加オーダーをすればいい。
たとえ、真正面で顔に心底“信じられない”と描いている親友のジョッキが、既に空で物足りなく見えてしまっていたとしても。
「バッカじゃないの。イヴの夜にイイ年した男女が二人で過ごして、それをデートと言わなくてなんと言う」
「ラーメン友達」
寛大な心で罵倒はスルーして、間髪入れずに即答すると黙ったのは瑠奈の方だった。
「瑠奈?」
「……ごめん、もう一回言って」
「だからラーメン友達だって」
「ふざけてる?」
「いいえ、全く」
瑠奈は見事なアホ面で、可愛いお口がポカーンと開いている。
27歳初日になんて顔だ。
是非写真に収めたい。(きっと許可は降りない)