たったひとりの君にだけ


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壁に飾られたシンプルな時計は、間もなく正午を指そうとしていた。

重なり合いそうな短針と長針。
オフィスにいる人は疎らである。

今月のスケジュールはこれで滞りなく進むだろう。


『即座にトラブルに対応出来るように、見るからに過密なスケジュールは組まないのよ』


これは私がまだ新人だった頃、ミスして落ち込んでいたときに、先輩トレーナーがランチを奢ってくれながら何気なく口にした言葉だ。

きっと、その為に自分達がいる、だから思い切りやりなさい、そう伝えたかったんだと思う。

今でも忘れられないのは、その言葉のおかげで肩の力が抜けたように仕事に向き合えるようになったからだ。


そして、その先輩の薦めにも関わらず、営業メインではなく現在のトレーナー職を選んだのは。

ここまで言えば理由なんて一目瞭然だ。


今頃先輩はどうしているだろうか。


残念ながら、旦那さんの海外転勤に付き添う為、退社してアメリカへ飛び立ってしまった。

今はあちらで出産もして、専業主婦として家庭を支えている。
娘さんの写真は本当に愛らしくて、すぐにでも渡米したくなった。

いつか帰国して再会する機会に恵まれたら、胸を張って会えるようになっていたいと思う。
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