たったひとりの君にだけ
だけど、そんなポジティブな思考を遠くに投げ飛ばすように、瑠奈の大声が一面に響き渡った。
その大迷惑な行為の所為で、懲りずに再度注目を浴びる羽目になった、師走を駆け抜けたアラサー女子二人。
今度は隣の大学生に留まらず、座敷一帯の視線がこちらに集中していた。
華の金曜日、長期休暇前日だからと言って、明らかに調子に乗り過ぎだ。
いい加減、いろいろセーブしてほしい。
「……瑠奈。学習能力欠如し過ぎ」
座敷の一番奥、角の席だったことが唯一の救いだろうか。
私は薄汚れた壁に顔を向け、頬杖をついて横目で瑠奈に厳重注意を施した。
「そんなんで世の中生きていけると思うの」
「27年生きて来たけど」
「とりあえず、腰を下ろして」
テーブルに両手を付き、中腰状態の彼女を制す。
顔なんてまだ戻せない。
「ったく。ミツオもバカなんじゃないの」
バカはどっちだ。
「だから充だって」
「はいはい、ミツル君ですよね、ごめんなさいね。で、ミツオもそれですんなり帰ったわけ?」
訂正する気は完璧に失せた。
何もかも諦めた方が賢いと悟る。
こうなれば、瑠奈はもう絶対に折れない。
もういいよ、ミツオでしょ、高橋ミツオでしょ。