たったひとりの君にだけ

「……やっぱり身勝手だわ」


だからこそ、そう呟くのに。
樹は全く揺るがない。


「お前に言われたくねえよ。意味不明な言い分を口にして、さっさと帰るお前にはな」


それにしても予想外だ。
実に予想外である。

樹がこれほど根に持ってたなんて。
意外にもほどがある。


だけど、結局はイマサラだ。

何がどう転がったって変わらない。



私達は別れた、それが全てだ。



「……なによ。そっちだってそれ以来何も連絡寄越さなかったんだから、納得したってことでしょ?」

「別に納得したわけじゃない。第一、無理矢理別れた後、電話もメールも何度もしただろうが。だけど一切応答なし。家もわからねえし、俺も目の前に迫った転勤の準備で忙しかったんだ、泣く泣く諦めるしかなかったんだよ」


何気なく顔を上げると、言葉とは裏腹にどこか冷たさを含んだ目線を向けられた。
強気に言い放つ彼が言わんとすることが全く読めなくて、困るほどの射抜くレベルに怯みそうになる。

私は視線を斜めに外して静かに溜息を吐いた。



「結局諦めたんじゃない。……ったく、そのままでいてくれればよかったのに」



最後の一言は、聞こえたか否か。
知り得ぬままに、彼は幸いにも黙る。

連絡なんて要らなかったのに。
何一つ望んでなんかいないのに。


本当に、ただ単純に。
“イマサラ”、なのだ。


私の中では終わっている。

幼い頃からの鉄壁のルールに従って。
身勝手を承知で。
“いつものように”、例外なく。


この男の前から去った。



ただ、それだけだ。
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