たったひとりの君にだけ

「……で、それを言いたいがために呼び出したわけ?だったらもう帰るけど」

「まさかだろ」


すると、即座の否定に眉をひそめた私とは正反対に、樹はふうっとどこか温かな息を漏らした。



「……言うなれば、忘れ物を取りに来たってところかな」



無意味にカッコつけた言い方に寒気を覚える。
出入り口最近辺ゆえの勘違いだろうか。


「単刀直入に言う」

「早くしてよ」


そして、樹は言った。





「俺と一緒にフランスに来て」





いつのまにか、カップの取っ手を摘んでいた私の左手に触れていた。

ゾワッとした感覚は紛れもない現実でも。
それをあっという間に掻き消すほどの威力を備えていたことも間違いない。

だからこそ、しかめっ面で『は?』と口にする。

今日の私は眉間に皺を寄せてばかりだ。
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