たったひとりの君にだけ
「聞こえなかったか?フランスに来てって言ったんだよ」
もう一度言ってほしかったわけじゃない。
聞き返したつもりもなければ、聞き取れなかったわけでもない。
ただ単純に、自分の優秀な耳を疑っただけだ。
「違う。そうじゃない。聞こえてる。たった1年で聴覚まで衰えてないわよ」
バカにすんなと私は左手を引く。
「じゃあ話は早い。どうする?」
「アンタ、自分がとてつもなく突拍子もないこと言ってる自覚ある?」
だけど、残念ながら聞き間違いでもなんでもなかった。
私の聴覚は至って正常である。
意味がわからない。
一体、何がどうなってそうなるの。
どうして1年振りの望まぬ再会の直後に、フランス移住を頼まれてるわけ?
「ないって言ったら嘘になるな」
「じゃあ聞かなかったことにする」
「それは無理。何度でも言うから」
身勝手。
やっぱり身勝手。
自己中。
ワガママ。
独裁者。