たったひとりの君にだけ

「聞こえなかったか?フランスに来てって言ったんだよ」


もう一度言ってほしかったわけじゃない。
聞き返したつもりもなければ、聞き取れなかったわけでもない。

ただ単純に、自分の優秀な耳を疑っただけだ。


「違う。そうじゃない。聞こえてる。たった1年で聴覚まで衰えてないわよ」


バカにすんなと私は左手を引く。


「じゃあ話は早い。どうする?」

「アンタ、自分がとてつもなく突拍子もないこと言ってる自覚ある?」


だけど、残念ながら聞き間違いでもなんでもなかった。
私の聴覚は至って正常である。

意味がわからない。
一体、何がどうなってそうなるの。


どうして1年振りの望まぬ再会の直後に、フランス移住を頼まれてるわけ?


「ないって言ったら嘘になるな」

「じゃあ聞かなかったことにする」

「それは無理。何度でも言うから」


身勝手。
やっぱり身勝手。

自己中。

ワガママ。

独裁者。
< 99 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop