少女達は夢に見た。
「場所は普通に美術室でいいでしょ。時間は10分くらいで」


すっかり友紀ちゃんの頭の中にはイメージがあるみたい。


「簡単な話がいいかなって思ってるんだけど、なにか案はあるかい?」


もちろん誰も答えない。

そりゃそうだ。


だってみんな演劇自体に乗り気じゃないんだし。

友紀ちゃんは構わないといった様子で、またなにか黒板に書き始めた。


「結局演劇やることになっちゃったみたいよ?」

カナンが小さな声で私に話しかけた。


「うん…」


他の部員たちも、私達と同様に、ひそひそと話していた。


「さあ!みんな、この中から選んで!」



黒板に書かれていた候補は以下3つだった。


“エリザベスの日常”


“ぼくはメロンソーダ”


“ひまわりと山田”


ひとつも知らない。


「これ…なに?」


それはカナンも…いや、みんなもだったようで


カナンに注目が集まった。


「これはね、友紀が書いた物語なのだー!」


耳にくる拍手の音。


友紀が自分で自分に拍手していた。


「まさか…このためだけに書いたの?」


もしそうだったらなんという行動力の持ち主なんだろう。


「違う」と言ってくれることを願い、友紀ちゃんの答えを待った。


「半々かなー。友紀、脚本書くのが趣味なんだ!」


どんな趣味だ。


「へぇ。この話の脚本とかもあるんだ?」


「まあね」


胸を張ってみせる。


書いた脚本はどうしているんだろう。


脳裏に一人芝居をする友紀ちゃんが浮かんだが、まさか。





友紀ちゃんはそれぞれのあらすじを簡単に説明してくれた。


「ありゃ…もうこんな時間だ。」


運動部も活動を終えなければいけない時間になり、そうして第一回3送会会議はおひらきとなった。

「じゃあみんな!考えておいてね!」


私達はほとんど座っているだけだった。


みんな友紀ちゃんに感心しているのか、呆れているのか


微妙な顔をしていた。


「いち、話聞いてた?」

「え…聞いてたけど」


カナンがひょこっと顔を下から覗き、


まるでなにか悪いことをして叱られた子供みたいな控えめな態度。


…聞いてなかったんだ、友紀ちゃんの話。


申し訳なさそうにするも、少しも反省していないのは見てとれる。


「“エリザベスの日常”はよくある乙女チックでロマンチックな話」


「うんうん」


「“ぼくはメロンソーダ”は宇宙に行く冒険もの。で、“ひまわりと山田”はコメディチックな恋愛もの!」


友紀ちゃんの簡単なあらすじをさらに縮め、カナンに伝えた。


「な、なるほどね。」


友紀ちゃんの情熱が私にも少し伝染してしまったようだ。





私達が下駄箱に着いた頃、丁度バスケ部の連中が体育館から出てきた。


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