少女達は夢に見た。
自室はやっぱり落ち着く。


通学用のリュックサックから予定張を取りだし、思い出した。


そういえば理科のワークの提出日が迫ってたな。

ちょうどいいや、やっておこう。


理科好きじゃないけど。

隣に恵瑠が居るが、けして無視しているわけじゃない。


そうしろと言ってもいないのに何故か正座だし。

しかも左右に揺れてる…。


「なにやるの?」


「理科」


「中二の理科ってなにやるの?」


「んー?原子とか分子とか」


ワークのページを開きながら答えた。


「へーえ」


分からない用語が出てきて興味が削がれたようだった。


本棚を見つめる。


「ちょっと漁っていい?」


「帰るつもりはないのね…」





「唐突だけど、真琴ちゃんとはあれからどうなの?」


本棚の中にあった“教科書英語は間違いだらけ!?”というエッセイ本を熱心に読んでいる恵瑠に、

ワークを進めながら訊いた。


「え!?な、なにいきなり…」


前置きをしたのに予想以上に驚かれてしまい、こちらまで驚く。


恵瑠は本を両手で持ちながら、大きくクリクリとした目をさらに見開かせてみせた。


そんなに驚くことかな?

小学生らしからぬ苦い顔をし、本を本棚に戻すと、静かに隣に座る。


「………告白された」


でも嬉しくはないわけね。


「なんて応えたの?」


もともと真琴ちゃんが恵瑠に好意を持っていたのはあからさまだったし、

そこまで驚きはしなかった。


「べつに」


「は?」


「付き合ってってて言われたわけじゃないし…」

しかし女の子が勇気を出して告白したというのに、この態度とは…。


ムカつくな。


もっと嬉しそうにしたらいいのに。


そしたら可愛げというものが増すだろう。


なんだその“当たり前”みたいな態度は。


「あ、わかった」


呟くように言えば、怯えるかのように私を見てきた。


「他に好きな人がいるんでしょ」


「さ、さっさとワークやれば!?」


「もう終わったし」



私の理科のワークを恨めしそうに凝視し、言葉を詰まらせる。


残念だったな、弟よ。


この勝負、お姉ちゃんの勝ちだ。


邪知暴虐な、どこぞの悪役のような笑みを浮かべていたことだろう。


恵瑠はじだんだ踏みたくても踏めないようすで、

恥ずかしそうに口を噛み締めていた。





「恵瑠はさ、どんなこがタイプなの?」


ここであえて名前を聞き出さないのは、歳上だからこその知恵。


「大人しい子…」


そろそろ脚がしびれてきたようで、もそもそと正座を崩した。


「明るい子より大人しい子がすきなんだ?」


「うん」


顔を見せないようにうつむく。


恵瑠にも好きな人ができたのか…。


やっぱりちょっとさみしいな。


「お姉ちゃんは?」


「え?」


「お姉ちゃんは好きな人とか、居ないの?」




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