少女達は夢に見た。
なんでこのタイミングで訊くかな。


小悪魔なの?


なんかお姉ちゃんとしての威厳が…。


弟は告白されて好きな人もいるっていうのに。


素直に答えるべきなのは分かってるけど。


なかなか答えられないでいると、勝ち誇ったような笑みを、見せつけるかのように浮かべた。


「いないんだ?」


「うっさい」


お姉ちゃんだって、恵瑠位の歳の頃には好きな人いたんだからね。


まさかそんな黒歴史を自ら吐露するわけもない。

その場しのぎの見栄が、なにを産み出すか、私はいやというほど思い知らされてきたのだ。


「じゃあ好きなタイプは?」


「タイプか…」


考えたこともなかったかもしれない。


「明るい人…かな」


でも…そう。


自分が大人しい…というか暗い人間だから、明るい人の傍にいたい。


「多少うるさくても?」

「別に構わないかな」


なるほどね。


つまり恵瑠は真琴ちゃんのことをうるさいと思っているわけか。


「ふーん」


わざとらしく手を口元にやり、考えているような素振りを見せた。


「恋愛経験のない姉で悪かったわね」


指摘されるまえに自虐。

よし、傷はまだ浅いぞ。

「テイソウカンネンだよ!お姉ちゃん!」


「……は?」


やけに生き生きとしだし、ガッツポーズを決めた。


なんだコイツ。


「貞操観念ね。でもそれ使い方間違ってるから」

「え?そうなの?」


純粋無垢な瞳で見つめてくる弟に失笑した。


無知って怖いね。


いや本当に。


一体どこでそんな言葉を覚えたんだか。


「もういいから自分の宿題しなよ、手伝うから」

子供っぽいのか、ませてるのか、


イマイチよく分からない恵瑠に、


これまたイマイチよく分からない母性愛のようなものを感じる。


半分は慈しみ、半分はあしらうように頭を撫でてから、


恵瑠の部屋へと移動した。


恵瑠はきょとんとした顔をしたが、すぐに後をついてきて、


五メートルもない距離なのに、わざわざ私を追い越してから先に部屋に入った。





「あ、ここ違う」


「え…」


宣言通り恵瑠の部屋で宿題を手伝う。


恵瑠の部屋といっても、広さから造りまでほぼ変わらないけど。


算数が出来たと自慢した割にはケアレスミスが多いような気がする。


始めてから3回目位のお姉ちゃんチェックが入り、うなだれた。





恵瑠の宿題が終わり、部屋に戻る。


と、同時に、ケータイの着信がなった。


買ってもらった当初のままの着信音。


始めの頃は幾度となく変えようとは思ったが、やり方がよく分からないのでこのままだ。


送り主ごとに着信音を変える…なんて便利なことも出来るらしいけど、


どうせそこまでたくさんの人と頻繁にやりとりするわけじゃないし。


もしこの着信音を目覚ましの音と同じにしたら、私はすぐに飛び起きるであろう。


この着信音は、もう固定だな。


いうなれば、私にとってこの着信音は、“5時の鐘”と真逆のことを意味するのである。


素早くベットの上にあるケータイをとり、開けば、機械らしい心地のいい音がした。


なにを隠そうガラパゴスケータイなのである。


受信箱を開き、その送り主を確認。


思わず口元が情けなく緩んでしまった自分の姿が、全身鏡に映った。


〈どぶ川読みました?早く読めよ!!〉


差出人はもちろん柚奈である。


ケータイを見つめて気味悪く笑う鏡の中の私と目が、あった。


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