少女達は夢に見た。
病人だから当たり前かもしれないが、友紀ちゃんはパジャマ姿で、


いつもサラサラとまとまっているボブスタイルの髪も、乱れていた。


ピンクに白の水玉のパジャマは、いつもの友紀ちゃんと全然違うようにみせて、なんだか可愛らしかった。


部屋に案内されるままに入る。


「ちょっと散らかってるけど」


友紀ちゃんの部屋は、もの凄かった。


クッションから、カーテン、シーツ、全体的にピンクで統一されていて、

ベットはお姫さまみたいな少女趣味の白いフレームだし、


その枕元はぬいぐるみで溢れかえっている。


目につく文房具は、すべてキラキラにデコレーションされていた。


「すごいね」


「なにが?」


今までこういうタイプの友達なんていなかったし、


いたとしても部屋に上がるほどの仲ではなかったから、


こんな部屋に足を踏み入れるなんて、ちょっとした冒険。


柚奈の部屋なんて、まだまだまだ、大人しい方だった。


まさか自分以外の女の子たちは皆、こんな部屋で生活しているのか?


だめだ…頭が痛くなってきた。





この、メルヘンちっくでハデハデキラキラな部屋に少しだけ、少しだけ順応し始めた頃、本来の目的を思い出した。


「これプリントね」


私の隣に座る友紀ちゃんに、数枚のプリントを差し出したが、


家にやって来たばかりの小動物のようにじっと見つめて、受け取ろうとはしなかった。


「どうかした?」


「あのね…プリントなんていつも持ってこないよね?」


ごもっとも。


そう。


始めから休みの人の家まで行ってプリントを渡す、なんて風習は、少なくとも、私たちの学年には存在しない。


にもかかわらず、カナンは私にプリントを渡せに行くついでに会いに行けと、地図までかいた。


だから流されて私はここまで来たのだ。


といっても、友紀ちゃんのことも心配だったし、そこまで嫌々ではなかった。


つくづく自分が断り下手のお人好しだと思う。


「友紀、てっきり溝口ちゃんに嫌われてると思ってたから、まさかわざわざ持って来てくれるなんて思わなかったよ」


笑いながら言う友紀ちゃんに、堪らなく胸が痛んだ。


背中まで、後ろから細い針でチクり、と、刺されてしまったかのようだった。


「嫌ってなんか、ないよ。昨日のことは…そんな意味じゃなくて…。」


「そうじゃなくて、もっと前から」


「前から?」


どういうことだろう。


私、友紀ちゃんになにかしただろうか。


心当たりがない。


気になる。


一体、私は何をした?


訊いても、いいかな。


でも、嫌なことを思い出させちゃうかな?


「よかった…」


友紀ちゃんの明らかに作ったような笑みが、“訊かないで”と言っているようだった。





「風邪、大丈夫?」


「ああ。これ、違うんだ」


何度か苦しそうに咳き込んだ友紀ちゃんに、おもわず声をかけてしまったが、違うとはどう意味だ?


まさか…


「仮病?」


だとしたら、私のせいかも知れない。


「仮病ってわけじゃ、ないん…だけ、ど…」


友紀ちゃんは困ったように口角を片方だけつり上げて、視線を斜め下に落とし、言葉を詰まらせた。



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