Under The Darkness





 タラップを下りて、そのまま空港内へと入った私は、日本って夏でも涼しいかも、なんて思ってしまう。

 だって五日前までいたラオスなんか、めちゃくちゃ暑かったから。

 簡素なTシャツに着古した短パンといった、味も素っ気もない極めてラフな格好をした私は、場違いなほどに大きな荷物を、よいしょと持ち上げて、空港の出入り口に向かった。

 ほんと、この五年半で私は見違えるほど逞しくなったって思う。

 身体も心も。

 今、私の左手首を隠す飾りは何もない。

 何も隠す必要がないから、五年前からずっとそのまま。

 髪も黒に染めることなく、本来の金髪だ。

 醜い手首の傷に何度も口付けを落とし、何も恥じることはないと、京介君が言ってくれたから。


 ――――京介君、元気にしとるかなあ。


 私は、今日帰国することは誰にも言わずに戻ってきた。

 京介君にも言ってない。

 この一年、京介君とは連絡も取っていなかった。

 半年に一度は勝手にやってくる京介君も、この一年は訪れることもなかった。


 ――……人は、時間と共に変わるから。その心も、流れる水のように刻々と姿を変えるものなんだ。


 きっと京介君は、私よりももっといい人と出合って、その人と共に、今、自分らしい人生を歩んでいるのだと、私はそう解釈した。



 ――――それで、ええんや。その方がええ。京介君のためには。


 胸の奥がズキッと痛む。


 ――……人のこと言えんな。私も相当執念深い。


 微苦笑を浮かべながら、胸のポケットからタバコを取り出した。火をつけ、そのまま深く吸い込む。

 燻る煙を見て、あれほど怖かった『火』も、今はそれほど怖いとは思わなくなっていたことに改めて気付く。

 こうしてライターで火を付けられるほどに回復した。

 ふと、空を見上げると、雲一つない快晴で。

 でも、私の心に渦巻く感情は、この綺麗な空とは全く正反対のもので。

 その想いは、私が思う以上にとても強いものだった。

 そう、例え京介君が人を殺していたとしても、一ミリも揺らがない程――強固な想い。

 それは同時に、強い、とても強い独占欲を伴って、私の心の中に今も居座り続けるもの。

 私は京介君を、子供のように頑是無《がんぜな》いこの独占欲で縛りたくはない。

 だから、これでいい。

 これでいいんだ。

 何度も自分に言い聞かせた言葉をまた、呟いた。

 短くなったタバコを、備え付けの灰皿へ放り込む。

 そして私は、五年ぶりの自宅へ戻るためにタクシーへと乗り込んだ。

< 306 / 312 >

この作品をシェア

pagetop