Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
独り言のようにこぼす言葉に、カルは驚いた顔をするでもなく、ただ静かに聞いている。
「月のように生きようと決めていた。決して眩くはなくても、夜の中でしか生きられなくても、太陽を追い続けていようと」
小さな頃から、ずっとそう決めていた。
ラシェルを追って、ラシェルだけを光にして生きていくと。
リヒターは両親の情など受けずに育った。
政務に忙しい父とは、幼い頃からろくに会話もしたことがなかった。
父と違ってやたらと干渉してくる母は、しかしリヒターに向けるのは愛情ではなく、執拗なまでの権力欲だった。
あなたにはラシェルと違って、王となるべく正統な血が流れているのだから、と。
権力欲の塊のような醜い母への反発で、リヒターは王位への興味を失った。
王は、兄がなればいい。元から継承権は彼にあるのだから。
リーラには情を持たないようにしていた。
いずれは政略結婚の手駒になるのだから、情を持ってはいけない、と。