ラスト・ジョーカー



 わけがわからない。


そんなうまい話があるのか。


そんなことをしてなんの得になるのか。


そもそも、どうしてエルに石を投げつけたのか。




 スメラギはエルの疑問に答えずに、「じきにわかる」とだけ言った。




「明日の朝、迎えをよこす。

ここにいられるのは今夜中だろうから、せいぜい別れを惜しんでおくことだな。

……惜しむだけの思い入れがあればの話だが」



 そう言って立ち上がると、いつの間にか戸口に立っていたカルラと共に、スメラギは去っていった。



 エルはしばらく耳をすまし、誰かが来る気配を探った。


なぜそんなことをしたのかは、自分でもわかっていなかった。


誰かに来てほしかったのかもしれない。


スメラギか、カルラか、それとも支配人か。


あるいは、ローレライか。


誰か、別れを惜しむべき人に。




 誰も来ない。


それがわかると、エルは冷たい地面に寝転がった。


すぐに睡魔が襲ってきて、眼を閉じた。




(次に目が覚めたとき、あたしはここを、去らなくちゃいけない)




 ローレライがいない見世物小屋に、惜しむだけの思い入れなど、あるはずもなかった。



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