愛を知る小鳥
「おはようございます。本日の予定は…」

あれから数日が経ったが、いつもと変わらない日常が送られていた。
あの翌日、潤が戸惑いを抱きながら出社すると、そこにはいつもとなんら変わりのない美羽の姿があった。前日の弱々しい姿が嘘のように、いつもの完璧な秘書の彼女がそこにいた。

だがしかし、そこには目には見えない明らかな壁ができていた。第三者が見ても絶対に気付くことはないだろう、潤にしかわからない壁が。秘書としての仕事は完璧だった。会議での失敗を取り戻すように、むしろいつも以上に働いていると言っても過言ではないほどに。
だが、決して仕事以上のことに踏み込ませようとしない彼女の強い意志が嫌と言うほど伝わってきた。特別潤が何かしようとしたわけではない。いや、そうする前に彼女に完全なガードを張られてしまっているという方が正しいのか。

彼女のことが心配で仕方がない。
彼女を傷つけるものから守ってやりたい。
日に日にその思いは強くなるばかりで、その思いとは裏腹にどんどん広がってしまうその距離に、潤は激しい憤りと焦りを感じていた。







これ以上彼に甘えることは許されない。
美羽は強く自分に戒めていた。
これ以上彼の言葉に甘えたらどうなる?
きっと彼に頼らなければ自分で立てないほど弱い人間になってしまうだろう。
いずれ彼がいなくなったらどうなる?
また奈落の底に落ちていくだけだ。

だからこれ以上は踏み込まない、踏み込ませない。
その強い意志が私には必要なのだ。


美羽は今にも崩れ落ちてしまいそうなほど脆い足場で、なんとか必死で自分を奮い立たせていた。
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