愛を知る小鳥
美羽は両親がまだ大学に在学していた頃にできた子どもで、親の反対を押し切り半ば駆け落ちするような形で結婚していた。父親は希望していた職種を諦めすぐに就職できるところへ身を置き、母親は自主退学を選んだ。決して裕福とは言えなかったが、そこには確かに愛が溢れていた。

美羽が3歳の頃、不景気の煽りを受けて父親の勤める会社は苦境に立たされ、彼もリストラ候補となってしまう。若い妻と幼子がいる身で無職になるわけにはいかないと、彼は必死で食い下がった。だがその努力も虚しく、職を失ってしまった。

そこから全ての歯車が狂っていく。
貧しさは歪みを生んだ。仲の良かった両親は次第に喧嘩が増え、父もそれまでほとんど手を出すことのなかった酒に逃げるようになった。酔ってはまたそれが原因で喧嘩になるの悪循環に陥っていた。

だが転機が訪れる。妻が再び妊娠したのだ。
元来真面目で子煩悩だった父は、このままではいけないと心を入れ替え再就職に精を出す。だが不景気真っ只中、思うように就職できるはずもなく、バイトを掛け持ちする日々が続いた。
苦しい生活ではあったが、家族の絆は取り戻せつつあった。

___あの日までは。

朝から夜遅くまで働きづめの日が続く中過労が祟り、父は出勤中の車で事故を起こし、そのまま帰らぬ人となってしまう。美羽がもうすぐ4歳になろうとしていた頃だった。
母は大きなお腹を抱えていたがショックの余り倒れてしまい、結局そのまま死産となってしまう。美羽にその頃の記憶はほとんど残っていない。だがその頃から母は変わってしまった。
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