愛を知る小鳥
慌てて否定する美羽にゆっくり首を振る。

「いや、本人も言っている通り、あなたに出会わなければ彼は一生救われることはなかっただろう。…私もね。…本当にありがとう」

「お父様…」

それだけ口にすると美羽の瞳から大量の涙が溢れ出した。拭っても拭ってもとどまることを知らない。ついには顔を覆って泣き出してしまい、潤はそんな美羽の肩を引き寄せると優しく包み込んだ。その優しさがさらに涙腺を崩壊させる。

「素敵なお嬢さんじゃないか」

「あぁ。俺にはもったいないくらい純粋でいい子なんだ」

「お前が頑張ってることは風の噂で聞いていた。だがそれ以上どうする勇気も私にはなかった。…お前には辛い思いをさせてしまった。すまなかった」

そう言って頭を下げた父親に潤は首を横に振った。

「もういいんだ。さっきも言ったように昔があるから今がある。今はもう本当に何とも思ってないんだ」

「…幸せなんだな」

「あぁ。自分でも驚くくらいに幸せだよ」

言いながら優しく美羽の頭を撫でる。父親はそんな二人の姿を眩しそうな眼差しで見つめていた。

「そうか…安心したよ。今回私もこういうことになって、お前のことだけが心残りだったんだ」

「何言ってるんだ。手術すれば治るんだろ? しっかり治さないと誰も許さないぞ。父親としても、医者としても、親父を必要としている人がまだまだたくさんいるんだ」

「潤…」

父親は歯を食いしばって言葉に詰まる。
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