蒼夏の刹那
その手は震えていて、顔も青白く見えた。



「……心臓、壊れる思った」

「ごめんなさい……」

「……なあ藍花、おれ、ずっと藍花の事――……想うてたよ」

「うん……」

「藍花をこの世界で独りにして、ずっと苦しめて、哀しませて、ごめん……ごめんなあ……」

「うっ、うう」



蒼は私を抱きしめている間、ずっと私に対して謝り続けた。



この瞬間、蒼が死んでしまった事をやっと…………真実として、受け入れられた気がする。



蒼もずっと苦しんでいた。



どうして蒼が、またこの世界に現れたかよくわからないけど……きっと、神様が許してくれたんだ。



私たちは、人目もはばからず泣いた。






今思えば、蒼が泣いたのはこの日が初めてだった。






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