蒼夏の刹那
蒼と手を繋いで木々が立ち並ぶ歩道を歩く。



「どうして私が病院にいる事知ってたの?」

「渚(なぎさ)が教えてくれた。今頃、あの坂道にいると思うわ」

「……そっか」



渚――速水渚(はやみなぎさ)



蒼の親友で、私が思い出せなかった人。



「……どうして蒼は、まだこの世界にいるの?」

「うーん……よくわからんけど、声がな、聞こえた」

「声?」

「せや。――夏の終わりまで、この世界に留めてやるから、願いを果たせって言われてな……気がついたら、あの坂道にいつの間にかいたんや」



蒼の言葉に私は何となく、自分の考えがあながち外れてなかったのだと知る。



科学的根拠も何もないけど、確かに蒼はちゃんとここにいる。



今なら、神様の存在を信じられそうな気がする。



< 34 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop