蒼夏の刹那
夕暮れの坂道を毎日ふたり並んで帰った。



必ず蒼は自転車を引いて歩く。理由を聞いたら、少しでも長く一緒にいたくて、この夕暮れの坂道を並んで歩きたいから――そう言って蒼は微笑んだ。



ゆるやかな優しい時間。



今日の授業どうだった?とか。



借りた本面白かった?とか。



明日の数学の授業嫌だね、とか。



特別な話なんて何もなくて、ただ一緒に並んで歩いて笑う。



たったそれだけだけど、この先に待ってる幸せより今この瞬間、今の自分が感じてる幸せより勝るものなんて、何もないと思った。



夕暮れの空も、蒼く澄んだ空も、ひとりより大切な人と見る方が何倍も感動するし、楽しい。



心に鮮明に残る、ずっとずっと忘れない。



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