翼~開け放たれたドア~
「おいっ!」

総長が、春輝を呼び止めた。

春輝は足を止めたが、振り返りはしなかった。

「…また、会えるか?」

シン…とした空間に響いた声。

春輝は何もしゃべらない。

「変えてみせるから…、そんときはまた…!
──会って…くれるか…?」

震える声に、春輝は振り返った。

彼女の目の前には、強い意志のこもった瞳でたつ、赤鬼の幹部の姿。

春輝は無表情のままだったけど、少しだけそれを緩めた。

冷たい表情ではなく、優しげな表情。

そして、急に近づいてきた春輝に、総長たちはうろたえた。

ばっと突き出された拳に、彼らは思わず目を瞑った。




「…?」

だけど、いつまでたっても覚悟した痛みは訪れない。

そっと目をあけると、

「手」

「え、あ…」

拳は胸のあたりで止まっていて、おそるおそる手を差し出す。




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