明日、嫁に行きます!

 ふと気付くと、カーテンの隙間から差し込む朝日が目に飛び込んできて。
 朝になったんだと清々しい気持ちでカーテンを開け放った瞬間、「うっ」と顔を背けてしまう。
 どんよりと腐れた汚部屋ばかりを見ていた眼球に、清浄な朝の光が容赦なく突き刺さり、吸血鬼よろしく力の抜けた身体がグラリと傾いだ。
 ようするに、不眠不休で働き続けた身体が限界を訴え、酷使された目が眼精疲労で痛んだだけなんだけど。
 目の下に盛大なクマを作った疲労困憊な私は、糸が切れた操り人形のようにしてふにゃりとへたり込んでしまう。
 私の視線が足元に落ちる。チリ一つ見当たらない、シックな色目をしたフローリングの床。
 窓から降り注ぐうるさいほどの光が、床の木目を明るく照らしていた。
 そう。
 昨夜は大量のモノで溢れかえり、汚染され、ここが畳敷きの部屋なのか、はたまた大理石が敷き詰められたセレブ仕様な床なのか、全くもって判別不可能だったのに、今まさに、この部屋の床がフローリングであるという事実が解明されたのである!

「さすが私……あの腐界が、今じゃ生活できるレベルに戻った立派なリビングよ」

 3時まで洗濯機を回し続け(下の階の方ごめんなさい)、ゴミとそうでないものを細かく仕分け、掃除機をかけまくって(もうしませんごめんなさい!)、最後に、賞味期限の切れた牛乳を薄めて床拭き掃除に使った。ワックス効果もあり、床はピカピカつやつやだ。
 キッチンは炊事をしないせいか、埃を拭っただけで新品のように綺麗になった。

 私は達成感に浸りながら、一晩掛けた努力の成果を感慨深げにゆるりと見渡した。
 その時、宙を舞うホコリを吸い込んでしまい「くしゅんっ」とくしゃみが出てしまう。
 これはマズいと、窓という窓を開け放ち換気に走る。
 ふと自分の身体に目をやると、身体中薄汚れて埃まみれだった。
 汚れた身体を洗いたくて、私はシャワーを借りることにした。

 時計を見ると、朝の5時半。
 まだ時間が早いし。
 鷹城さんが起きてくることもないだろう。
 そう判断した。
 お風呂を借りようと浴室に向かった時、廊下に置かれた大きな段ボールに目が留まる。
 そういえば、掃除の時、邪魔だったので端っこに除けたまま忘れてた。

 段ボール、邪魔だな……。

 一旦気になりだすと、どうにかしたい衝動に駆られてムズムズしてしまう。
 玄関脇にあるトランクルームに隠してしまおうと、箱に手を掛けた時。
 送り状に目に留まった。
 書かれた名前に、ぽろっと目玉が落ちそうになる。

「なんでウチから!?」

 送り主は母だった。
 しかも、宛先の氏名欄には、鷹城さんと私の名前が連名で記されていて。
 どういうことだと不審に思い、バリバリと段ボールを開けてみた。
 段ボールの中身は、私の衣類と保存のきく食料品などがいっぱい詰まっていた。

「……これってやっぱり計画的だったんだ」

 茫然と呟く。昨日の夜、何度自宅に電話しても、誰一人出ないからおかしいと思ったんだ。
 両親の携帯も繋がらないし。

「……ハメられた」

 ふつふつとした怒りがこみ上げるんだけど。

「と、とにかく、まずはお風呂……」

 睡眠不足と疲労困憊な私は、段ボールの中から下着やら部屋着やらを探り当て、睡魔でフラフラになる身体に鞭打って、なんとか浴室へと向かったのだった。
< 26 / 141 >

この作品をシェア

pagetop