明日、嫁に行きます!
「寧音ちゃんのね、旦那様が迎えに来るのよ、サラちゃん」
「違うし! も、ホントにヤメて!!」
当たり前って顔してなに言うのお母さん!
ほら、サラがビックリしてるじゃない!
私は違う違うと頭を振って、目を丸くするサラに「お母さんボケちゃっただけだから!」言った瞬間、お母さんに頭をパコッと叩かれた。
「ふふっ。お姉ちゃん、顔真っ赤だよ」
お母さんに似た顔でにやりと人の悪い笑みを浮かべる妹のほっぺを、コンニャローとひっぱてやる。
「もっ、痛いじゃない! でも、お姉ちゃんから誰かを好きになるのなんて初めてじゃない? その人、普通の人だったらいいね!」
嬉しそうに顔を綻ばせながら、サラはそんなことを言う。普通の人だったらいいねってその言葉、なにげにヘコむんですけど。
「お姉ちゃんって男の人、自分から好きになったことないんじゃないかなって、あたしいつも思ってたから」
ギクリとした。
そう言われれば、私、自分から誰かに告白したことない。
高校時代、私、自暴自棄になってたから、恋愛とかどうでもいいって思ってた。好きって言ってくれる男子がほっとけない感じの子だったら、絆されて付き合っていたように思う。
自分から告白して付き合ったとか、よくよく考えたら一度もない。
……サラ、この子、意外と鋭い。
「でも、よかったね。あたし嬉しいよ。普通の人だったらもっと嬉しい」
その言葉通り、嬉しげに紅潮した顔で微笑まれたら、なんだか気恥ずかしくて。
――――そんなんじゃないし違うし、鷹城さん顔が怖いだけで普通だし。
もごもごと口の中で呟いたら、サラに鼻で嗤われた。
「あら、サラちゃん。残念だけど、鷹城さんは普通じゃないとママは思うの」
サラの言葉に、お母さんが余計なチャチャを入れてくる。サラがギョッとした顔でお母さんを見た。
「え? どう普通じゃないの?」
「受けた印象だと、『紳士の仮面を被った狡猾なケダモノ』って感じだったわ」
「うわ、ケダモノなの!? お姉ちゃん、大丈夫?」
辛いことされてない? と、もの凄く心配そうな顔で見つめられて、居たたまれなくなる。
「そ、そこまでひどくはないと思う……」
口籠もりながら鷹城さんをフォローするんだけど、サラは大仰なため息を吐きながら首をゆるりと振った。
「お姉ちゃんの彼氏って、みんなどっかおかしかったからねえ。お姉ちゃんの男見る目って、可哀想なくらい皆無でしょ? それにしても、ケダモノかあ。またそんな感じのおかしな男なのかあ」
「……いや、サラ、なにげに今、ヒドいこと言ってるよね?」
妹に、過去の男はみんなどこかおかしい異常者の如く論じられ、可哀想なくらい男見る目皆無とまで言われてしまった。
姉としての立場がない。
この子、姉である私に恋愛相談とかしてこなかったのは、見る目がないって分かってたからなのか。
……なにげにショックだ。
悄然と肩を落とす私に、妹は『元気出せ』とばかりにポンッと背中を叩いてきた。
「お姉ちゃん、あたしがいいアドバイスしてあげる。もしその『ケダモノ』に襲われそうになったら、こうやって、ねじってひねって引っ張って、最後に蹴り飛ばしたらいいんだよ。男の人が悶絶する最大の急所、キン」
「ぎゃ――――っ、お母さん!? サラになに教えてんの!? いや、身を守る方法だから、教えるのはいいんだよ!? でも、ねじるのもひねるのも引っ張るのも、素手で触るとか気持ち悪いでしょ!? それに、具体的な部位名はいらなんじゃないかな!?」
母や妹の口からは聞きたくない単語だ。恥ずかしすぎる。彼女達には羞恥心がないのだろうか。興奮のあまり肩で息を吐く私を見て、お母さんとサラは二人同時にハッと嘲笑を浮かべる。
サラはどうやら顔だけでなく性格まで母に似てしまったらしい。
……私、似たのが顔だけで良かった。
性格だけは似なくて良かったと安堵の溜息を吐いた時、ピンポーンピンポーンと、けたたましく玄関ベルが鳴り響いた。
ギクリと強ばる私を尻目に、お母さん、ルンルンと鼻歌混じりに玄関へと向かってしまう。
「は~い、いらっしゃーい」
語尾にハートマークがつきそうなほど上機嫌な声に、こっそり玄関をのぞき込んだ私は愕然とした。
玄関先に佇む、長身で、誰もが振り返る秀麗な容姿を持つ男。彼の姿を視界に捉え、ス――ッと血の気が引いてゆく。私の隣で同じようにして玄関先を盗み見る妹が、「あの格好いい人が、ママの言う『ケダモノ』?」茫然と呟いた。
妹よ、その通りです。
――――鷹城さん、ホントに来やがりました。
鷹城さんの顔がこちらを向いて、バチッと視線が合ってしまう。途端、母と対峙していた爽やか好青年風な笑顔が、一瞬にして怒れる般若にすり替わる。
その瞬間、回れ右、私はリビングを飛び出し階段を全速力で駆け上がった。
「あ! こら、逃げるな! ……寧音っ!!」
背後から聞こえてくる怒声に、生きるか死ぬか、追い詰められる草食獣の気持ちをリアルに体感してしまった。
「違うし! も、ホントにヤメて!!」
当たり前って顔してなに言うのお母さん!
ほら、サラがビックリしてるじゃない!
私は違う違うと頭を振って、目を丸くするサラに「お母さんボケちゃっただけだから!」言った瞬間、お母さんに頭をパコッと叩かれた。
「ふふっ。お姉ちゃん、顔真っ赤だよ」
お母さんに似た顔でにやりと人の悪い笑みを浮かべる妹のほっぺを、コンニャローとひっぱてやる。
「もっ、痛いじゃない! でも、お姉ちゃんから誰かを好きになるのなんて初めてじゃない? その人、普通の人だったらいいね!」
嬉しそうに顔を綻ばせながら、サラはそんなことを言う。普通の人だったらいいねってその言葉、なにげにヘコむんですけど。
「お姉ちゃんって男の人、自分から好きになったことないんじゃないかなって、あたしいつも思ってたから」
ギクリとした。
そう言われれば、私、自分から誰かに告白したことない。
高校時代、私、自暴自棄になってたから、恋愛とかどうでもいいって思ってた。好きって言ってくれる男子がほっとけない感じの子だったら、絆されて付き合っていたように思う。
自分から告白して付き合ったとか、よくよく考えたら一度もない。
……サラ、この子、意外と鋭い。
「でも、よかったね。あたし嬉しいよ。普通の人だったらもっと嬉しい」
その言葉通り、嬉しげに紅潮した顔で微笑まれたら、なんだか気恥ずかしくて。
――――そんなんじゃないし違うし、鷹城さん顔が怖いだけで普通だし。
もごもごと口の中で呟いたら、サラに鼻で嗤われた。
「あら、サラちゃん。残念だけど、鷹城さんは普通じゃないとママは思うの」
サラの言葉に、お母さんが余計なチャチャを入れてくる。サラがギョッとした顔でお母さんを見た。
「え? どう普通じゃないの?」
「受けた印象だと、『紳士の仮面を被った狡猾なケダモノ』って感じだったわ」
「うわ、ケダモノなの!? お姉ちゃん、大丈夫?」
辛いことされてない? と、もの凄く心配そうな顔で見つめられて、居たたまれなくなる。
「そ、そこまでひどくはないと思う……」
口籠もりながら鷹城さんをフォローするんだけど、サラは大仰なため息を吐きながら首をゆるりと振った。
「お姉ちゃんの彼氏って、みんなどっかおかしかったからねえ。お姉ちゃんの男見る目って、可哀想なくらい皆無でしょ? それにしても、ケダモノかあ。またそんな感じのおかしな男なのかあ」
「……いや、サラ、なにげに今、ヒドいこと言ってるよね?」
妹に、過去の男はみんなどこかおかしい異常者の如く論じられ、可哀想なくらい男見る目皆無とまで言われてしまった。
姉としての立場がない。
この子、姉である私に恋愛相談とかしてこなかったのは、見る目がないって分かってたからなのか。
……なにげにショックだ。
悄然と肩を落とす私に、妹は『元気出せ』とばかりにポンッと背中を叩いてきた。
「お姉ちゃん、あたしがいいアドバイスしてあげる。もしその『ケダモノ』に襲われそうになったら、こうやって、ねじってひねって引っ張って、最後に蹴り飛ばしたらいいんだよ。男の人が悶絶する最大の急所、キン」
「ぎゃ――――っ、お母さん!? サラになに教えてんの!? いや、身を守る方法だから、教えるのはいいんだよ!? でも、ねじるのもひねるのも引っ張るのも、素手で触るとか気持ち悪いでしょ!? それに、具体的な部位名はいらなんじゃないかな!?」
母や妹の口からは聞きたくない単語だ。恥ずかしすぎる。彼女達には羞恥心がないのだろうか。興奮のあまり肩で息を吐く私を見て、お母さんとサラは二人同時にハッと嘲笑を浮かべる。
サラはどうやら顔だけでなく性格まで母に似てしまったらしい。
……私、似たのが顔だけで良かった。
性格だけは似なくて良かったと安堵の溜息を吐いた時、ピンポーンピンポーンと、けたたましく玄関ベルが鳴り響いた。
ギクリと強ばる私を尻目に、お母さん、ルンルンと鼻歌混じりに玄関へと向かってしまう。
「は~い、いらっしゃーい」
語尾にハートマークがつきそうなほど上機嫌な声に、こっそり玄関をのぞき込んだ私は愕然とした。
玄関先に佇む、長身で、誰もが振り返る秀麗な容姿を持つ男。彼の姿を視界に捉え、ス――ッと血の気が引いてゆく。私の隣で同じようにして玄関先を盗み見る妹が、「あの格好いい人が、ママの言う『ケダモノ』?」茫然と呟いた。
妹よ、その通りです。
――――鷹城さん、ホントに来やがりました。
鷹城さんの顔がこちらを向いて、バチッと視線が合ってしまう。途端、母と対峙していた爽やか好青年風な笑顔が、一瞬にして怒れる般若にすり替わる。
その瞬間、回れ右、私はリビングを飛び出し階段を全速力で駆け上がった。
「あ! こら、逃げるな! ……寧音っ!!」
背後から聞こえてくる怒声に、生きるか死ぬか、追い詰められる草食獣の気持ちをリアルに体感してしまった。