ヴァニタス
あの時武藤さんが私を止めてくれなかったら、私は本当に何も知らないままだった。

恋をすることも、誰かを好きになることも、何も知らないままだった。

誰かを支えたいと言う気持ちも、誰かに信用されたいと言う気持ちも何も知らないまま、私は命を手放そうとした。

それらのことを教えてくれたのは、武藤さんだった。

「大事なことを何にも知らないまま、私はこの世からいなくなろうとしていたんです。

武藤さんが私を止めてくれたから…私は生きて、ここにいることができるんです」

「それが、あなたの強さの秘訣なのね」

そう言ったクロエさんに、
「私が強いかどうかなんて、それは私自身でもわかりません。

自分の強さなんて、自分で見えるものじゃないからわからないです。

でも私はそれらを全部含めて、武藤さんを強い人だって言えます」

私は言った。
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