ヴァニタス
私は武藤さんのことを弱虫だって思っていない。

武藤さんのことを弱い人だって笑っていない。

そう言いたいのに、この距離を目の前にしたら口を開くことができなかった。

その背中を抱きしめて、彼に言いたい。

あなたは1人じゃないって、言いたい。

知らないことがあったら理解するから、あなたのそばにいたい。

あなたのそばにいて、あなたを支えるからって言いたい。

わがままだって思われてもいい。

お節介だって言われてもいい。

私は武藤さんが好きだから、武藤さんのそばにいたいって思っているの。

武藤さんのそばにいて、武藤さんを支えたいって思っているの。

「――武藤さん…」

私が名前を呼んだのに、彼が私の方を向かなかったのは、私の声が小さかったんだと思いたかった。
< 190 / 350 >

この作品をシェア

pagetop