ヴァニタス
その声に視線を向けると、
「――武藤さん…」

武藤さんだった。

武藤さんは私のところへ駆け寄ると、
「どこへ行ったのかと思ったよ」
と、言った。

その様子から、どうやら武藤さんは私のことを探していたみたいだ。

「すみません…」

そんな彼に、私は呟いているような声で謝った。

「帰ろうか」

武藤さんがそう言って、私に背中を見せた。

彼が歩き出したのと同時に、私も歩き出した。

会話はない。

3歩ほど空いている距離に、私は寂しさを感じた。

武藤さんは私のことを避けているんだと思った。
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