ヴァニタス
武藤さんが空を見あげた。

「今日は三日月だね」

武藤さんに言われて、私も空を見あげた。

黒い夜空に、銀色の小さな三日月が浮かんでいた。

「久しぶりに月を見たな」

武藤さんがそう言ったので、
「そうですね」

私は返事をした。

そう言えば、月を見るのは本当に久しぶりだった。

武藤さんは空に向けていた視線を私に向けると、
「今度こそ、本当に帰ろう」
と、言った。

「はい」

私が首を振って縦にうなずいたことを確認すると、武藤さんは歩き出した。

彼について行くために、私も一緒に歩き出した。
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