ヴァニタス
「きっと、ちゃんとわかってくれてるよ」

武藤さんが励ますように私に言うけど、それでも私の中の不安は消えなかった。

「果南ちゃんのお父さんに1発殴られる覚悟はしてるから大丈夫だよ」

笑いながらそんなことを言った武藤さんに、
「武藤さん!」

私は彼をたしなめるように名前を呼んだ。

「ごめん、言い過ぎた」

武藤さんは私の頭のうえにポンと自分の手を置いた。

「殴られたら嫌です」

呟くように言った私に、
「うん、わかってるよ」

武藤さんは言った。

「じゃあ、チャイムを鳴らして」

そう言った武藤さんに、
「はい」

私は首を縦に振ってうなずくと、チャイムのボタンを押した。
< 283 / 350 >

この作品をシェア

pagetop