スイートナイト
優とは夜の生活を共にしていなかった。

私に気を使っているんだと言うことが、嫌でも理解できた。

「…やっぱり、まだ早いか」

うつむいた私に、優は困ったように言った。

引っ越しても、生活の何もかもが変わってしまっても、私は忘れることができなかった。

――巽の存在を。

優は騙されていたんだと言うけれど、私は心の底から彼のその言葉を否定していた。

私は巽のことを好きで、巽も私のことが好きだった。

好きだったから躰を重ねて愛しあった。

好きだったから一緒に暮らした。

巽の存在、巽と一緒に過ごした日々、巽がささやいてくれた言葉――忘れると言う方が、よっぽど間違ってる。
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