夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「ええ。多分ダイくんは、嫌がられるか握り返されるかを予想していたんだと思います。ですがその時のわたしは、そんなダイくんの気持ちを忖度(そんたく)出来ずに、何か用があるのかと思ってしまいました。今思い返しても、悪いことをしたと思っています」
 「うーん。そんなに気にすること無いんじゃないかな?その年頃の女の子なら、その反応は当然ともいえるし」
 「そう、なのですか?」
 「いきなり意識して無い男子に手を握られたら、その歳の女子なら誰でも訳が分からなくなるよ。それに、場馴れした女の子なら、同じ反応で躱(かわ)すだろうし」
 「そういうもんですか?」
 「そういうもんだよ。で、そのダイくんとはそれからどうしたの?」
 「ええ。何だか気不味くなったので、映画館を出た所で別れようと思ったのですが、ダイくんに誘われて喫茶店に入りました。そしてそこで、わたしはダイくんに正式に交際を申し込まれたという訳です」
 「成る程ね。まあ、ダイくんには可哀想だけど、答えは勿論―」
 「はい。ノーです。わたしははっきりと断ったのですが、ダイくんは『他に好きな奴がいるのか?』と聞いてきました。ですから、わたしは正直に『違う』と答えました」
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