夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「ふむふむ。でも納得はしないだろうね」
 「はい。ダイくんは更に『じゃあ、何故?』と聞いてきました。ですから、わたしはまたも馬鹿正直に『今まで、他人に恋愛感情を持ったことが無い』と言いました。ダイくんはそれを聞いて一言『わからない』と言って去っていきました。それ以来、ダイくんとは気不味くなり、今ではすっかり疎遠になってしまいました。ですが、思い返せばその時の出来事が、わたしに自分の性的指向を気付かせてくれるきっかけになったのだと思います」
 「そっか。そんなことがあったんだ」
 「ええ。それ以来、何となく映画館から足が遠退いてしまったという訳です」
 ユラは微苦笑を浮かべると、梅酒を呷った。
 「成る程ね。実はわたしも、映画館に行かなくなってたんだ。まあ、その理由はユラさんとは少し違うけどね。簡単に説明すると―」
 そう言ってヒロコは、過去に友人に呼び出されて、嫌な男と映画を観たことを話した。
 「ヒロコさんも大変ですね。でも、カドカワさんって何だか不思議ですね。妙に落ち着いているって感じで」
 「フフッ。そうだね。確か、最初からあんな感じだったな」
 「カドカワさんとは、いつからの付き合いですか?」
< 143 / 200 >

この作品をシェア

pagetop