あたし、猫かぶってます。
ーーー翌日
「帰れ。」
教室へ入った瞬間、早瀬があたしを思い切り睨み付けて、低い声で一言。
「え?」
もちろん喧嘩した覚えもないし、かといっていつもみたいなふざけた雰囲気でも無いし。一体なんなんだろう。
「言ってる意味分かんねぇ?今すぐ帰れって言ってんの。」
早瀬は、どこか怒っていて、でもあたしには全く心当たりが無くて。まるでいじめられていた時みたいな妙な不安感に襲われる。
「なん…で?」
つい、涙腺が緩んでしまい流れる涙。泣いている自分を見て、ざわめき出す教室。でも、一番焦っているのは、
「え。ちょ、結衣?」
なぜか分かんないけど、目の前に居る早瀬。
早瀬の前では泣いてばっかりだ。きっと嘘泣きとか思われるのかな。やだな、
自分でも、なんでこんなに不安なのかは分からない。でも、ずっとあたしを甘やかしてきた早瀬が冷たくて、不安で不安で仕方なかった。
「俺が、泣かした?」
近くに居た男子に、驚きながらも尋ねる早瀬。そして遠慮がちに頷く男子。
「結衣、違うから。怒ってないから。」
ーーーギュッ、
優しく抱きしめられる感覚。よく分からない、早瀬めちゃくちゃ意味不明だし、帰れとかひどいよ。
「早瀬の、ばか。」
「うん。」
天然な振りなんて忘れちゃうくらい早瀬の肩を泣きながらポカポカ叩いた。早瀬は、なにも言わずにあたしの背中を優しくトントンとしてくれた。
優しくなったり怖くなったり、何考えてるか全然わかんない。早瀬って、なんなんだろう。