あたし、猫かぶってます。


 それから、いつも通りの、むしろいつもよりも退屈な1日を過ごして、気付けば放課後。

 いつもはさり気なく見ていた隣の席の早瀬を、今日は一回も見なかった。いや、見れなかった。


 「結衣、バイバーイ!」


 「早瀬ちゃん、また明日!」

 クラスの男子や女子が、次々と居なくなる。


 静かな教室で、ボーッとしながら奏多を待つ。いつもはすぐに教室に来てくれる奏多も、今日に限って中々来てくれない。

 あたしは一秒でも早く奏多に会って、全てを忘れたいのに。


 「…結衣、」

 ふと隣から聞こえた、声。



 焦りながらも横目で見ると、すやすや眠っている早瀬が居て、ホッと胸を撫で下ろす。

 なんだ、寝言か。


 起きていたらもちろん困るけど、寝言で名前を呼ばれても困るんだよ?早瀬くん。


 「ゆい、……ごめん。本当にごめん、」

 顔を歪ませながら何度もごめんと呟く早瀬が、たまらなくあたしの胸を締め付ける。


 「ごめんは、あたしのセリフだよ。」

 そっと早瀬の頬に触れる。早瀬も奏多も聞こえていない今なら、なんでも言えるような気がした。



 「早瀬は、あたしを嫌いになった…?」

 嫌われたい、嫌われたくない。矛盾した気持ちが、あたしの中でグルグルと回る。






 ーーーグイッ


 「嫌いになれるはず、無いだろ。」

 目の前でさっきまで閉じていた瞼が開いて、切なげな瞳が、あたしに向けられる。


 捕らわれた腕が熱いのは、彼のあたしに対する気持ちなのか、あたしが彼を忘れたい気持ちなのか、分からない。





 「…早瀬、」


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