あたし、猫かぶってます。
「いつから、起きていたの。」
「結衣が俺に触れたあたりから、」
ーーー聞かれていた。しかも、早瀬本人に。
「なぁ、ごめんってどういうこと?結衣はどういう意味で俺に謝ったの?」
強引じゃない、気を遣ったような言い方の早瀬に、なんだかすごく距離を感じた。いつの間にか、こんなに遠くなっていたんだ。
「…盗み聞きなんて、最低だよ。」
こんなの、屁理屈だ。そんなこと分かっているけど、何かに話題を逸らせたくて咄嗟に出た言葉。
「最低でも、いいよ。」
傷付いたように笑う早瀬を見て、自分の発した言葉の意味を思い知らされた。
「でも。俺が起きたらまた結衣は逃げるだろ?ーーなぁ、答えろよ。結衣は俺が嫌いなの?」
真っ直ぐ見つめられる。目が逸らせない。
《嫌い》って言わなきゃいけないのに、言葉が出てこない。言わなきゃいけないのに、言わなきゃいけないのに、ーーー言えない。
「また泣くの?マジずりぃ…、」
そう言いながら苦しそうに笑う早瀬。気付けばあたしの目には涙が溢れていて。
「ーー答えてよ、結衣。…十秒以内に答えなきゃキスすんぞ、」
優しくあたしの涙を拭う早瀬が、冗談まじりに笑いながら口を開く。
「じゅう、きゅう、はち、……」
早瀬、早瀬、早瀬。好きなんだよ、やっぱり。早瀬を見るだけで、こんなにキュウって胸が締め付けられるんだよ、あたし。
だから、言わなきゃ。
「に、いち、」
「待って、言うちゃんと言うから…っ!!」
ゆっくりあたしに近付いてくる早瀬の顔がピタリと止まる。
「嫌いじゃない、あたしだって嫌いになれない。」
「むしろあたしは早瀬が好きだから、もう居たくない。奏多を不安にさせたくないの。もう、早瀬に揺れたくない。…お願い、ほっといて。嫌いになって。突き放して。」
驚いた表情の早瀬が、切なそうに顔を歪めるまでの時間が、すごくすごく長く感じた。
「待って。そんなの、俺が無理だし。却下。」
沈黙を破るように早瀬はそう言ってーー
「気付いてんだろ、俺の気持ち。」
掴んでいたあたしの腕を強く強く、引っ張った。