あたし、猫かぶってます。
ーーーパシッ
乾いた音が、教室に響いた。私は訳分かんなくて、寝返りを打つフリして奏多達の方を見た。
「さいってー!!!」
涙声の、さっき奏多を好きだと話していた方の女の子が奏多の右頬に平手打ちしていて。あたしは息を呑んだ。
奏多が女の子に怒られたり、批判されたり、ましてや平手打ちされるなんて。想像できなかった。
「帰る!!」
女の子達はそう言って教室を出た。
「今の、結衣には内緒ね。」
一番後ろの席で読書していた地味な女の子に困ったようにそう言いながら、あたしの隣に座る奏多。
「秋村くんは、なんであんな言い方したんですか?」
女の子が控えめに聞くと、奏多は「うーん」と唸って、あたしの髪を優しく撫でて、答えた。
「結衣に意地悪されるくらいなら、俺に恨みを向けてくれた方が好都合なんだよね。」
その言葉に、ジワリと胸と目頭が熱くなる。
「でも、結衣にバレたらまたあいつ俺の為に悩むから。秘密にして欲しい。」
秘密どころか、バリバリ聞こえてるし。
「だから、生活委員会サボったんですか?」
「バレた?なんか通りかかったら結衣の悪口言ってるし、結衣寝てるし。起きたら大変じゃん?」
「結衣ちゃん、そういうの鈍感そうですけど。」
「ん、でも、意外に結衣、弱いんだよ?」
なんて言いながらあたしの頭をポンポン叩く奏多。叩かれた衝動でポタリと涙が机に落ちた。
…やばい。泣いたりしたら、起きてるのバレちゃう。