あたし、猫かぶってます。


 「結衣ちゃんホワホワしてるイメージしか無いです。」

 なんて笑いながら女の子は奏多にそう言う。


 クラスメートなのに関わったことも無ければ、話したことも無い、呼び名すらなんて呼んで良いか分からないその子の名前はーー確か佐伯さと美さん。


 「佐伯さんから見た結衣は、ホワホワしてるんだ?」

 あたしの性格を知っているからこそなのか、笑いながら佐伯さんの【ホワホワ】に反応する奏多。

 そういえば、奏多が女の子とマトモに会話してるの、高校入ってから初めて聞いているのかもしれない。


 あの事件以来、女の子とは必要最低限の会話と告白くらいしか話してないように思えたし。


 「だって結衣ちゃんって、天然じゃないですか?」

 なんて真面目に答える佐伯さと美さんに、なんとなく騙しているからか複雑な感情が芽生える。


 「うん、でも、結衣も人間だからさ。」

 笑うのをやめて、真面目な声になる奏多。



 「悪口聞いたら多分傷付くし、泣きたい時だってあるんだよ。意外に自分の気持ち溜め込んだりするし、俺はずっと結衣を見てきたから、分かる。」

 本性がバレないように、うまく佐伯さと美さんにあたしのことを話す奏多。


 奏多はもし、あたしが起きていたと知ったらどんな顔をするのだろうか?

 盗み聞きしていたのかって怒る?ーーいや、違う。どこから聞いてたのって、きっと真っ赤な顔で照れながら言うんだ。



 「結衣ちゃんは、こんなにも愛されてるんだね。」

 佐伯さと美さんの言葉。確かにあたしもそう思う。奏多にこんなに愛されてるんだって、改めて思い知った。けど、



 「秋村くんは見返りを求めないの?」

 佐伯さと美さんのこの言葉に、胸を掴まれたような気持ちになった。


 奏多はあたしを優しい目で見るから、いつも甘やかしてくれるから、何も返せていない自分がずっとずっと嫌なヤツだと思ってた。

 きっと奏多は見返りなんて求めてないだろうけど、いい人の奏多は、大好きだけど、本当にそれでいいの?って、たまに思う。


 奏多の本当の気持ちはどうなのか、知りたいって思う。



< 207 / 282 >

この作品をシェア

pagetop