あたし、猫かぶってます。


 「いちいち騒ぐな。うっせえ。」

 そう言えば静かになる教室。


 このクラスでは早瀬が絶対的存在だから。どんなワガママで理不尽でテメーふざけんなよって意見でも、誰も反論しない。


 みんな早瀬のことが好きで、みんな早瀬に嫌われたくないから。



 「てか、結衣が知らないっつーなら知らないだろ。結衣がお前らに嘘ついてるとでも言いたいの? 」

 その言葉に反論の声はなくて、改めて早瀬朔という1人の人間のすごさを思い知らされた気がする。


 「お前らが一年間仲良くして来た早瀬結衣は、そんなつまんねえことする女だったんだ?」


 「ーー違う!!!」

 
 早瀬の言葉に反論したのはーーあたしが休んだ日、メールを無視した男子だった。


 「結衣ちゃんは優しくて、そんなことする子じゃない!」

 その男子の声に便乗して「そうだ、そうだ」と言い出すクラスメート達。その姿に、なんだかすごく泣きたくなった。



 ごめん、みんな。二重人格は本当なんだよ。みんなが知っている早瀬結衣は、あたしじゃないんだよ。騙しているんだよ?


 「もう、いい…」


 「良くないだろ、こんな意味分かんねーこと言われて、」


 早瀬はあたしがピンチの時、当たり前のように助けてくれる。今だってそう。こうやって自分の権力を使って自業自得なあたしを助けてくれている。だからーーー


 「早瀬は、黙ってて。」

 早瀬じゃなくてあたしが、戦わなきゃ。


 天然結衣ちゃんじゃない口調。ごめん、早瀬。せっかく庇ってくれたのに、台無しにしちゃって。


 でも。その場しのぎの結衣ちゃんの仮面なんて、なんの意味も無いんだ。この先ずっとずっとずーっと、みんなを騙しているくらいなら、

 「ーーー佐伯さと美が言ってた、二重人格ってのは本当。あたし、猫かぶってます。」



 全部言っちゃって、嫌われ者になる方がよっぽどマシ。


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