ここに在らず。


「……」


目の前のベンチに座る人。その人は足を組んで俯き加減に座っている。その人から3メートル程の距離で私の足は止まった。

その人の顔は見えない。フードで隠された俯いた顔は上から照らされて影になり、この少し離れた距離からは暗闇の中に溶け込んでしまっている。


私はまるで呼ばれるようにここまで吸い寄せられた…いや、呼ばれていたんだとは思わないけれど、私は本当に、自然とここまで、彼の前まで足を進めていた。

彼の前に着いた時、その時私は見つけたと思った。私は人を見つけた。この人を見つけた。きっとこの人だと思った。


「……一人って何ですか?」


尋ねる言葉が、私の口から溢れ出す。
暗闇に溶け込むその人がどんな反応をしたのかは分からない。でも言葉は届いたのだと、私には感じた。


「一人って何ですか?」


< 11 / 576 >

この作品をシェア

pagetop